なんとなくブランディングが必要だなと考えているけど、具体的に考えてなかったり、「ブランディングは大企業ものでしょ?」と他人事化するのはもったいないです。むしろ、中小企業こそブランディングによって自社の強みを再構築し、他者との差別化を図ることが重要です。
そもそもなんとなくで使っているブランディングとはどんなことなのか?中小企業にとってブランディングが必要な理由は何のか、どうすれば効果的に進めていけるのかをまとめました。
誤解されがちな中小企業のブランディング
ブランドとは「識別記号と知覚価値が結びついたもの」です。マクドナルドであれば、識別記号としてロゴや特徴のある店舗デザイン、食欲をそそられる匂いなどが当てはまりますし、その識別記号によって、知覚価値が誘発されるわけです。たとえ圧倒的に優れた性能の商品を作ったとしても、消費者がその存在すら知らなかったり、「魅力的な商品だ」「性能が優れてる」と認識してもらえない限りは選ばれません。
<識別記号> 文字、音声、形、色、においなど五感に訴えるもの ロゴや名称、製品、店舗など、ブランドを識別するための手がかりになるもの <知覚価値> 消費者の頭の中にある価値認識 どういう商品・カテゴリーなのか、どういう人格イメージなのか、購入・体験することでどんな便益があるのかといったイメージ
ブランドを作るための活動、ブランディングはロゴや製品名・サイトの変更だけでは解決できません。これらはあくまでブランドを構成する要素の一部にすぎず、ブランド全体を表しているわけではないのです。どのように自社やサービスを第一想起してもらうか、そのために何を媒介(目印)にするのかを1つ1つ理解しておく必要があります。
また、ブランディングを進める上で、下記を理解しておきましょう。
- ビジュアルの変更(ロゴなど)だけではブランディングは成立しない
- webサイトの変更など1つの施策だけでは効果は上がらない
- 短期では効果が上がりづらい
- 社外向けだけの活動では形骸化してしまいやすい
ブランディングは魔法の杖ではなく、日々の活動の蓄積によって成り立つものです。
消費者がブランドを想起するまでの流れ
ブランドはどうすれば消費者の頭の中に残るのでしょうか?「テレビCMで見かければ」「一度商品を使ってみたら」「友人から噂を聞いて」どれも正解ですが、どれか1つでブランド価値が形成されるわけではありません。私たちがそのブランドに接する全ての印象(体験)の蓄積がそのブランドに対しての識別記号・知覚価値の形成に関わってくるのです。
そしてこれらの消費者体験は企業がコントロールできるものだけではなく、直接コントロールできないものも存在します。
(1)企業がコントロールできるもの
- 商品・サービス・体験
- 広告・キャンペーン
- 接客・営業
- ウェブサイト
(2)企業がコントロールできないもの
- クチコミ・評価
- マスコミの報道
- 自社以外の販売網
個々の体験を魅力に感じていたとしても、それぞれの体験によって一貫性がないことでブランドの記憶はねじ曲がったり、そもそも記憶されないことが起きてしまいます。だからこそブランド戦略を考えるうえで、社内外に一貫してその価値を理解してもらえる状況を作る必要があります。
なぜ中小企業にブランディング戦略が必要なの?
日本の企業の99.7%、数にして約421万社は中小企業です(中小企業庁より)。
販促費や人員に制限がある中で、同じ中小企業だけでなく大手企業と戦っていく必要があります。ブランディングは魔法の杖ではありませんので、全てを解決することはできませんが、ブランディングによって強いブランドを持つことができれば、莫大な販促費の投資や、値引きによる交渉をしなくても、顧客に選ばれ、利益の出る事業成長の基盤を作ることができるようになります。
強いブランドを持つメリットは大きく3つに分けることができます。1つは事業成長にしする「利益が出る事業基盤の構築」、そして組織面への効果「人材強化基盤の構築」、最後に企業価値そのものの向上につながる効果です。
1、利益が出る事業基盤の構築(製品サービスへの効果)
- 競合に埋もれずに選ばれる
- 有益な取引条件を提示できる
- リピート率向上
2、人材強化基盤の構築(社内への効果)
- 採用強化、優秀な社員の採用
- 従業員の満足度、定着率向上
3、企業価値向上(社外への効果)
- 株価向上
ブランディング戦略を考える順序
「”対象にこう思われたら自社の商品やサービスを選んでくれるだろう”という価値を見つけ、そう感じてもらえるように(その印象が残るように)、全ての顧客体験に一貫性を持たせること」がブランディング戦略の軸となります。
コンセプトを決めてその浸透をなおざりにするのも、「Webサイトをリニューアルする」といった施策だけ考えるのも本質的ではありません。全体像を理解して、優先順位を立てて実施していく必要があります。大きくは下記の6つのステップに分けて進行していきます。
- ブランディングの目的整理
- 社内課題の整理
上記を元にした優先解決課題の決定
上記課題を解決するために優先してアプローチすべき対象の決定
- ターゲット理解・定量分析(公のデータ、情報から)
- ターゲット理解・定性分析:(インタビューから)
- ターゲットの体験マップを作成
- 社内の強み、資産整理
- 知覚価値の決定
- 知覚価値を誘引する識別記号の検討
- コミュニケーション・マーケティング施策検討
- 実施
活動しなければいけないことがモリモリに見えてしまいますが、この中でも優先してやるべきことを各社の課題に合わせて進めていけば問題ありません。自社での実施が難しそうであれば、専門的に進めることができるプロに頼ってみるのも良いと思います。
最後にブランディング戦略の考え方、ブランディングとは何かをを理解するための書籍を紹介します。
ブランド論 無形の差別化をつくる20の基本原則
デービッド・アーカー (著), 阿久津 聡 (翻訳)
ブランド論確立の立役者、デービッド・アーカーの20年におよぶ研究成果をコンパクトに集約した一冊。数々の理論を“煮詰めた”ブランド論のエッセンシャルな決定版!
ブランド・マネジメントの基礎、ブランド・ビジョン、ブランド・レレバンスなどについて、20の基本原則にまとめて解説する。
デジタル時代の基礎知識『ブランディング』 「顧客体験」で差がつく時代の新しいルール
山口 義宏 (著)
「ブランドとは?」「ブランド戦略とは?」「強いブランドを持つ利点は?本書は、こういった素朴な疑問から丁寧に解説しますので初学者や学び直しをしたい人にぴったりの内容です。
中小企業こそブランディング戦略を
中小企業は売り上げや市場シェアが大企業に比べ小さいため、柔軟に対応することができます。また、ブランディングを目的としてなんとなくで進めてしまっている企業が多いこそ、本質的なブランディングとは何かを理解し、進めることできれば差別化を図ることで”事業””組織””企業価値”3つの側面で恩恵を受けることができます。ぜひ検討してみてください。
とはいえブランディング戦略をいきなり作成するのは難しいものです。まずは簡易版でも良いので、まずは2時間ほど使って一度この順序に沿って検討してみてください。計画した上でもう少し具体的に検討を進めたい場合は、コンサルティング会社に相談してみてください。